星槎大学 助教授 野口桂子先生の記事から~
人間関係に悩んだ時、現実をしっかり洞察し、整理することです。その難しい人間関係を整理するために有効なロール・レタリング(ノートに向かい、悩んでいる相手に手紙を書き、数日後に今度は、自分が相手になったつもりで自分への返事を書きます。)の例を紹介します。
麻衣子さん(仮名)は、母子家庭で育ちました。5歳のとき母親が家出をし、それ以降はおばあさんに育てられました。中学2年生のとき、おばあさんが病気になり、入院することになったので施設に入ることになった、そんな状況下での書簡です。
~どこにいるの、お母さん?~麻衣子から母への手紙(麻衣子さんが書き、お母さんには渡さない手紙)
お母さん、お母さん・・・・・何度、私の心の中で呼び続けただろう。いつも夢見てた。優しくてきれいな私のお母さんが、走って私を迎えに来てくれる日を。そしてお母さんは、きれいな家に私を招き入れ、わたしたちの生活が始まる。
寂しくて、息ができないくらいせつない日、私はいつも、お母さんが送ってくれたマフラーを抱いて想像していた。絶対どこかにいるはずの、私を迎えに来る準備をしているお母さん。
お母さん、おばあちゃんがね、病気になって、もう私達を育てられなくなってしまったの。だから弟と私、施設に来たんだよ。児童相談所の人に聞いたんだけど、お母さんは、今、新しい家庭で、赤ちゃんを育てているんだってね。だから、お母さんに会いに行くことは難しいだろうって言われた。私、また心臓がちぎれちゃいそうだったよ。お母さん、私達の声、聞こえないの?どこにいるの、お母さん。
~許してくれますか?~母から麻衣子への手紙(麻衣子さんが書いたもの)
麻衣子ちゃん、本当にごめんなさい。私は悪いお母さんだったね。私がやけを起こして家を出て行ったすぐ後、悪い人たちにだまされていることがわかったの。ぼろぼろになって、麻衣子ちゃんや祐樹のことを思ったよ。心の底から後悔したよ。
でも、運命は不思議。2年前に新しい家庭を持って、今は1人の子どもを授かりました。あなたたちのことを思うたび、心が痛みます。勝手なお母さんを許してくれますか。
~現実を受け入れる~麻衣子が書いた母への手紙~(お母さんには見せません)
お母さん、もういいよ。何も説明しなくてもいいよ。こっちは、何とかやっていくから心配しないで。
お母さん、新しい子どもも、今度は精一杯かわいがってね。私達に、してくれたくてもできなかったこと、全部してあげて。その子が幸せにすくすくと大きくなってくれたら、私達は救われるから。その子は、何があっても守ってあげてね。お母さんは、同じこと2度繰り返す人じゃないよね。
お母さん、お母さんの新しい人生を生きていって。私、夢があるんだよ。私、元気になるんだ、絵を描いているとき。絵を描いていると、まっすぐな気持ちになれて、心の中を表現することができるの。そんな自分は嫌いじゃない。自分の顔も好きだよ。
お母さんの顔は覚えてないけど、きっと私に似ているんだろうね。(終わり)
野口先生のコメント
麻衣子さんは、悲しみの中にあっても、現実を受け入れ、お母さんを許し、自分の心を整理することができました。読んでいると、涙があふれ出てくるような手紙です。ロール・レタリングから、奇跡のような宝物を見た思いです。